①日本語聖書翻訳はザビエル来日前から始まっていた

聖書の日本語翻訳は、ザビエルが日本に来日する1549年よりも前に始まっていました。ザビエルがマラッカで宣教中、鹿児島出身の日本人アンジロウ(ヤジローとも言われます)と出会います。アンジロウは鹿児島で重罪を犯し、逃げるためにポルトガル船に乗船。罪の懺悔の為に神父を探し求めていたのです。アンジロウと出会ったザビエルは日本宣教を志すようになりました。またその助けとなるであろうアンジロウを、当時アジアの宣教拠点とされていたインドのゴアへ送り、聖書の学びをさせたのです。そして遂に1547年5月にアンジロウは受洗し、日本人初のキリスト教信者となりました。彼は後の1548年11月29日、イエズス会の総長ロヨラに送った手紙の中で、聖書の「聖マテオ福音書」を日本語に翻訳したことが記録されています。日本語の聖書翻訳は、1549年のザビエル来日の前から行われていたのです。
(ロヨラ総長/Wikipediaより)

②仏教用語を拝借した

その後、アンジロウはザビエルの日本宣教の中で大きな役割を果たします。アンジロウから得た情報をイエズス会の宣教師ランチロットが「日本情報」としてまとめました。その書物の中には日本の宗教に関する情報も含まれていました。「日本情報」の中にはアンジロウの出身である鹿児島が、真言宗が比較的多数であったことから真言宗に関する用語がかなり含まれています。真言宗の中で大切にされているのは、「大日如来」という本尊です。大日如来は太陽に由来する大宇宙の根本仏とされています。「日本情報」では日本人の崇拝する唯一の神は「大日如来/ディニチ」とされています。ゆえにザビエルは聖書の語る唯一なる創造主(当時カトリックではデウスと表現)を「大日/ディニチ」と読み替えて宣教することにしました。

(左・ザビエルと 右・アンジロー / 上智大学の研究ホームページより)

③仏教僧侶も親近感を抱いた?説教中にクスクスと笑い声が?

ザビエルはこの日本情報に基づいて宣教を始めました。あちこちで「大日を拝しましょう」と語りました。しかし、この「大日」という言葉はもともと仏教用語であった事から大きな誤解を招くことになります。「大日」という言葉で教えを広めているザビエルを見て、当時の仏教界では同じ仏教の新しい宗派が、はるばるインド方面からやってきたと思い、仏教の僧侶もザビエルの宣教に好感を抱いたり、親近感を覚えることもあったようです。唯一の創造主を大日如来と誤解して受け入れてしまった事から、日本人比較的簡単にザビエルの宣教を受け入れたかのように見えました。またこの「大日」という言葉が当時、性的な意味も含んでいた事から、ザビエルが説教中に「大日を拝みましょう」と語ると会衆からクスクスと笑い声が出る始末に。

キリスト教を伝える為にやってきたザビエルでしたが、アンジローが語る仏教用語を安易に拝借してしまった為に本当の宣教がうまくいかず、遂には「大日を拝さないようにしましょう」と語り、今まで使用していた「大日」を固有名詞のデウスに再度戻して宣教を始める事になりました。

上記の内容には (聖書の日本語ー翻訳の歴史ー / 鈴木範久著 / 岩波オンデマンドブックス /  2017年)の内容を、一部まとめさせて頂いた部分があります。